マネジメントとは何か―ドラッカー教授から学ぶ実践に不可欠な<マネジメントの原理> ~利益とは~

私たちは成功の方法を求めすぎているのではないか。
ドラッカー教授のマネジメント哲学を学べば学ぶほど、そう思わずにはいられません。

マネジメントの本質の原理・原則は成果に関するものですが、利益や売上といった自分たちが手にするものを成果と誤解していることが多く見受けられます。では「利益」はどのようなものなのでしょうか。

 

[もくじ]

 

利益は目的ではない…存続の条件である

企業の目的は利益をあげることではない

おそらく、ドラッカー・マネジメントにおいて、この「利益」ほど誤解にまみれたコンセプトないでしょう。最大の誤解は、「企業の目的を利益をあげることである」というものです。

組織(企業)の目的に「利益」という言葉は見当たりません。組織の最大の目的を確認しておきましょう。

<マネジメントの原理3>
組織の目的は社会において特有の役割(ミッション)を果たすことである

では、利益は…

<マネジメントの原理13>
利益は組織が役割(ミッション)を果たすための条件である

組織の目的ではなく存続の条件です。利益(繰越利益―剰余金―内部留保)なしに長く組織という道具を使い続けることはできません。燃料切れになってはミッションを果たすことは不可能です。

ドラッカー教授は、利益は未来におけるコストであるといいます。未来のリスクや不確実性に備える燃料庫だというのです。それゆえ条件としての利益は目標よりも厳しい基準です。あげなければならないものという意味だからです。経営者の覚悟が問われます。それは社会とって必要不可欠の道具である組織(企業)を使って、社会の役に立つという覚悟です。具体的には、利益をあげ税金を払って内部留保を厚くするという覚悟です。未来のコストはどれくらい貯蔵されていますか。

 

利益の役割―その1 利益は未来のリスクをカバーする

<マネジメントの原理14>
利益は、未来のリスクと不確実性をカバーする

利益は人類が生み出した古い道具です。単に<売上高―費用>という差額を意味する会計上の利益だけの理解では十分ではありません。利益という道具には目的があるのです。利益はマネジメントの道具です。それは会計の道具としての利益という意味を超え、マネジメントの道具として明確な目的をもっています。

利益という道具の役割その1

第一の目的が「未来のリスクと不確実性に対する保険料」です。事業を行っているということは、資源を未来に賭けているようなものです。誰も未来で何が起こるかはわかりません。常に売れ残りなどのマーケットリスクと隣り合わせです。失敗すると事前に支払った人件費や投資は返ってきません。売れ残りというリスクをカバーする保険は世の中に存在しません。それをカバーしてくれるのは、利益、すなわち過去の利益の累計である剰余金だけです。

また、たとえばイノベーションなど新規性の高い事業は、その成立の可能性さえ不確実性です。新規事業を行ったが一度も黒字にならず撤退…などということもあります。この損失をカバーする保険も世の中にはありません。やはり利益でカバーするしかないのです。

このような意味でドラッカー教授は「利益は未来のための保険料」と表現しました。毎年、税金を払ったあと累積された利益は剰余金となり、「保険金」としてストックされていきます。その意味で剰余金が多い会社はリスクや不確実性に対する備えが大きいといえるでしょう。それは挑戦できる体質にあるということです。組織の未来を支えるもの、それが利益なのです。

毎回掲載している原理の定義です。
「原理とは、それに沿えば必ずうまくいくというものではないが、それから踏み外したときには確実に失敗する」。早稲田大学MBA西條剛央先生『チームの力』より

今回の原理に反する過度の節税志向は組織が未来に生きる力を奪うものです。「確実に失敗する」ことのないよう注意が必要です。

 

利益の役割―その2 利益は資金調達の基盤となる

<マネジメントの原理14>
利益は、未来のリスクと不確実性をカバーする

ドラッカー教授は「利益には3つの役割がある」と述べました。マネジメント上、利益は、単に会計上求められる差額概念ではありません。ハッキリとした役割があります。利益というコンセプト(道具)の役割を理解して、これを活用するという姿勢が大切です。その一つが上記です。今日は2つ目の役割につていてです。

利益という道具の役割その2

<マネジメントの原理15>
利益は、事業の拡大とイノベーションに必要な資金調達の基盤となる

資金調達能力は、利益および過去の利益の蓄積額である剰余金の多寡で決定されます。剰余金は内部に蓄積した過去の利益です。内部留保が多いほど多くの資産を保有しているはずです。たとえばそれが現金であれば金融機関は返済の能力を高く評価するでしょう。

また剰余金は純資産を高め一株当たり純資産を高めます。もし新株を発行しようとしたら。原則としてこの数字が高いほど発行価格が高くなります。これは、利益をあげる能力が高いことを意味します。将来にわたっても期待できるとなれば発行価格はより高くなります。

このように利益(過去の利益の蓄積を含む)が大きければより多くの資金を調達することができるのです。原理の15はそのことを述べたものです。

 

利益の役割―その3 利益は事業の有効性と健全性の指標となる

上記の原理は「利益には3つの役割」に関するものです。

1.利益は、未来のリスクと不確実性をカバーする
<マネジメントの原理14>
2.利益は、事業の拡大とイノベーションに必要な資金調達の基盤となる
<マネジメントの原理15>
3.利益は、事業活動の有効性と健全性を測定する
<マネジメントの原理16>

3つの原理は、事業と利益が密接に結びついていることを示しています。2.は利益が、事業の拡大やイノベーションための資源となることを示しています。しかし、これらの目的に使われる資源が当初の予定に反して、不確実性やリスクにさらされたとき、それをカバーするのは過去に蓄積した利益です(1.)。その意味で1.と2.は同一線上にあります。

利益という道具の役割その3

今日は最後の原理16について説明します。この原理は少し毛色が異なります。利益が事業活動の有効性と健全性のメジャーになるというのです。ここで測るべき対象は「事業活動の有効性」と「事業活動の健全性」です。このメジャーの目盛は利益という形で表現されるというのです。事業活動自体を測定対象としていることから「マネジメント上の利益」と私は呼んでいます。

これに対して「会計上の利益」は、一般に法人全体の業務成績の好不調を測定対象とし、その目盛に利益を用いるといってよいでしょう。利益は計算をして終わりというのが会計上の利益です。利益を表す言葉である赤字や黒字という呼び名やボトムラインという表現がそのことを端的に示しています。

さてマネジメントに利益という道具を生かす際のポイントが「事業活動の有効性」と「事業活動の健全性」という視点です。事業とはプロセスである<マネジメントの原理8>と関係しています。これらの測定対象は、事業というプロセスの巧拙を判断しようとするものです。

事業の有効性とは、そのプロセスから生み出される経済価値が顧客の支持を得ているかどうかを判定するものです。利益や利益率のこれまでの趨勢、将来見込を勘案しながら市場における顧客支持を定性的に判断することになります。すなわち今後。顧客支持を増すことができるのか、もしくは市場の中で競合と横並びの価値しか提供できないのかという判断を下すことになります。言葉を換えると差別化や独自化が進んでいるのか、その逆なのかということになります。

次に事業の健全性とは、有効性の判断にしたがって経営資源の配分を変え、ヒトやカネを適切に切り替えて運用しているかどうかを問うものです。具体的には、事業活動に、さらに力を入れる、力を抜く、撤退する、本格的に参入するなど判断を行う際の基準となるものです。一般に事業活動は、既存の活動を増やす、減らす。新しい活動を始める。既存の活動をやめるという4つの方向で考えることになります。

言葉で説明するには難しい面があります。上記については拙著『実践するドラッカー〔利益とは何か〕』p.254~259をお読みください。具体的数値を用いて解説しています。

 

利益は付加価値の一項目―利益よりも重要な経営指標

利益は付加価値の一項目である<原理17>

経営を行っていると利益にばかり目が行きがちですが、経営力を示す指標として重要なものが付加価値です。付加価値とは、どんなものでしょうか?

一定期間に付加された価値はいくらか…この数値は以下の原理と関係しています。復習です。

<マネジメントの原理8>
事業の定義
・事業はプロセスである
・事業というプロセスに知識を投入する
・事業というプロセスから経済価値(顧客価値)を生み出す

顧客価値と付加価値は同じである

付加価値は、事業というプロセスから生み出された価値ということになります。顧客価値の別名です。その意味では、利益より重要な数値であるとも言えます。事業というプロセスの中で徐々に「付加された価値」を示し、いわば事業の実力を示す数値だからです。

その源泉は知識であることも明白です。他社とは異なる価値を顧客にとどけるためには、差別化、独自化をしなければなりませんが、その源泉は知識です。ドラッカー・マネジメントでは知識の本性は能力であると位置づけています。情報を仕事や成果に結びつけたとき、情報ははじめて知識に転化されます。

<マネジメントの原理18>
知識とは、情報を仕事や成果に結びつける能力である

付加価値を大きくする経営を付加価値経営と呼ぶことがあります。付加価値を高めるためには原理の8を意識しておく必要があります。つまりインプットである知識、アウトプットである顧客価値、それを結ぶプロセスの3点です。

ちなみに付加価値を求める計算式は以下のようになります。

【控除方式】付加価値 = 売上高 ― 外部購入価値
※外部購入価値:材料費、購入部品費、仕入商品、水道光熱費、運送費、外注加工費、業務委託費など

【加算方式】付加価値 = 当期純利益 + 人件費 + 賃借料+ 減価償却費 + 金融費用 + 租税公課

【加算方式】の式をみると利益が付加価値の構成項目の一つであることがわかります。利益も重要ですが、より付加価値額が重要だという意味が解ります。

 

しかし計算式の要素だけみてもプロセスも知識も顧客価値も分りません。付加価値を分析するとは単に計算することではなく、知識や顧客価値、プロセスそのものにアプローチして行くことです。そのためには事業ごとにプロセスの巧拙がわかる数値が必要です。その数値を参考に、事業ごとに顧客にとっての価値は何か?蓄積すべき知識は何か?生産的なプロセスとは何か?を問わなければなりません。一度、じっくり付加価値に目を向けてみましょう。

 

「利益の最大化」に潜むわな―「損失回避」「必要な利益」という行動原理を身につける

<マネジメントの原理19>
企業行動は、利益の最大化ではなく、損失の回避である

なぜ、こんな原理が必要なのかと思うかもしれません。理由は一つです。企業に社会的な役割(ミッション)ある限り存続し続けることが社会的責任であるからです。そのためには利益とその蓄積が不可欠です。下記の原理そのためのものです。つまり利益なくして社会で役割を果たし続けることはできないということです。

<マネジメント原理14>
利益は、未来のリスクと不確実性をカバーする

利益とその蓄積(剰余金、内部留保)が無くなると、企業は事業を継続することができなくなります。自明のことです。

利益の蓄積という観点から考えれば、利益の最大化が行動原理として正しいように思われるかもしれません。しかし、利益の最大化を行動の原理と位置づけることで様々な歪が組織に生じます。たとえば、利益を優先して不正プログラムを搭載した車を販売し続けるとか、損失を先送りして不正会計を繰り返し虎の子の半導体事業を手放などの反社会的行為が起こっています。その根底あるのが、利益は最大化することが正しいという誤った認識があります。

「利益の最大化」という考え方は、古い経済学における一つの仮説(利潤動機)でそれが正しい行動原理であるということが歴史上証明されたことは一度もありません。しかし利益動機は、その後、独り歩きし、神格化され、都市伝説のように残り、経営の現場に悪影響を与えています。

安全で排ガス規制のルールに則った車を提供することは提供する者の前提条件であり、そのうえで利益が確保できないのであれば社会的な役割を果たせないことになります。

「利益の最大化」「損失回避」「必要な利益」…考え方が行動を変える

企業文化にまず浸透させなければならないのは、「損失の回避」という思考と行動原理です。これはある意味、「利益の最大化」よりも厳しい原理です。利益は絶対確保という基準です。その条件の下でミッションを果たすという固い決意でもあります。

できるだけ多くという姿勢と最低これだけは死守するという姿勢とでは、間違いなく行動が異なります。それはものの考え方の一つですが、いざという局面で決定的に行動が違ってきます。たとえば目の前にある利益獲得の機会に社の命運をかけてすべてをつぎ込むことにGOサインを出してしまうことがあるかもしれません。

しかし、「利益最大化」という思考では組織の存続を危うくするというレベルの自社では負えないリスクと利益の最大化を天秤にかけて、後者を選ぶ圧力となります。しかしこれは間違った判断です。

「最低限を目指す志向」からは、存亡のリスクをとることはないでしょう。日々の利益を着実に積み重ね、その結果としてより大きな機会にチャレンジする。 これがあるべき姿です。日本は世界一の企業長寿国です。背景に「損失回避」「必要な利益」という発想があったからこそ生まれた現実なのです。

「必要な利益」とは想定されるリスクや不確実性に耐えうる内部留保という意味です。具体的には、被災して数か月事業停止になったとしたら会社は維持できるのかと問われているのです。そう問われる理由は、繰り返しになりますが社会的な役割を果たし続けるためということになります。

「必要な利益」は意外と大きなものになります。しかしその額には理由があるということです。顧客のため働くスタッフのため職場を守るという理由があります。「利益の最大化」には意味がありません。意味がないということは、利益を目的化するなど組織が暴走する可能性も高いということです。「最大利益」「損失回避」「必要な利益」どれも異なるコンセプトです。これらのコンセプトの使い方ひとつで組織メンバーの意識を変えるのですから恐ろしいものです。今一度、よく考えてみましょう。

 

コスト管理志向に潜むわな―管理の対象は活動である

<マネジメントの原理20>
利益の増減に関係するのはコストではなく活動である

「利益を生むためにコスト管理を徹底せよ」という言葉を使いがちですが間違いです。えっ!と思い人も多数かと思います。どういう意味なのか?この謎を解くには<売上、コスト、利益、活動、資源>の関係を整理してみれば解ります。

常識を変える-コスト管理ではなく活動管理を重視する

売上高 ― コスト = 利益 これは誰でも解る関係です。しかしコストが売上を生むわけではありません。売上を生むのは活動です。活動の良否が売上を生みます。

たとえば新商品を販売するために仕入をして、新しい営業マンを雇ったとします。その彼は、営業経験はあるものの飛び込み営業というスタイルにまったく対応できずに、売上をまったくあげられないで3か月経過したとします。3か月分の給料と販売費というコストは何も生まず、その分、損失となります。仮に3か月で新規事業撤退を決めたとすると在庫分も損失になります。

コストをかけたから売上があがるのではなく、優れた活動があるから売上があがるのです。活動には資源が必要です。資源を使うとコストになります。コストは何も生まない活動にもかかります。

 

繰り返します。コストは何も生まない活動にもかかります。したがってコストを管理しても売上があがるわけではありません。販売やマーケティングに関する活動が売上の多寡を決めます。売上だけが投下したコストを回収することができます。投下したコストを売上が上回れば利益がでます。コストを抑えて利益をだすという発想は短絡的です。どんな活動に対するコストなのかが重要です。

それゆえ、コスト管理ではなく活動管理を行うことが重要です。

この点、ドラッカー教授が著書の中で紹介しているパレートの法則(2:8の原則)がとても役にたちます。全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出しているという法則で、多くの社会現象にあてはまるという経験則です。

たとえば、商品の売上の8割は全商品のうちの2割のアイテムで生み出しているというものです。これを活動管理に応用します。すなわち20%程度の活動の種類が80%程度の活動量をしめると考えることができます。パレートの法則を用いれば、どの活動を重点的にマネジメントすればよいのかがわかるということです。

<マネジメントの原理21>
コスト管理ではなく、活動管理を重視する

一度頭をクリアにして、<売上、コスト、利益、活動、資源>の関係を整理してみましょう。大切なものが見えてくるはずです。

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佐藤等公認会計士事務所

この記事は2021年1月4日以前に執筆されたものです。 佐藤等公認会計士事務所は令和3年1月4日をもって鈴木康弘税理士事務所と経営統合し、アウル税理士法人となりました。
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