抱える従業員が増えてきた経営者の方は、給与計算などの事務作業の負担が大きいと感じたタイミングで外注を検討することが多いです。ただし、税理士と社労士のどちらに依頼するかは、初めて外注を検討する経営者にとって悩ましい問題です。
この記事では、それぞれの専門家が行う業務の違いや、自社の規模や業務内容に応じた最適な依頼先の選び方を解説します。
給与計算の依頼先|税理士と社労士の違い
給与計算を外部に委託する際、税理士と社労士という専門家の選択肢があります。それぞれの専門分野や業務範囲が異なるため、どちらに依頼するかは会社の状況やニーズに応じて判断する必要があります。
ここでは、税理士と社労士の違いについて説明します。
税理士の業務範囲と専門分野
税理士は主に税務に関する専門家であり、企業の納税手続きや税務申告をサポートすることが主な役割です。そのため、給与計算に関しても税務処理を含む内容を専門としています。特に年末調整や源泉徴収税額の計算といった税金に直結する部分は、税理士の専門分野です。
例えば、年末調整では所得税の再計算を行い、過不足を調整することが必要であり、これには税法の知識が欠かせません。また、役員報酬や従業員への賞与支払いなど、税務に関する問題も税理士の専門分野です。
税理士の業務範囲には以下のようなものが含まれます。
- 年末調整の代行
- 源泉徴収の税額計算
- 税務署への申告業務
社労士の業務範囲と専門分野
一方で、社労士は労務管理の専門家であり、社会保険や労働保険に関する手続きを得意としています。給与計算の中でも、特に社会保険料や労働保険料の計算・手続きに関しては社労士の専門分野となります。社員の入退社時の保険手続きや、育児・介護休業の際の保険対応なども社労士が行うことが一般的です。
例えば、従業員が育児休業を取得した際には、育児休業給付金の申請や社会保険料の免除手続きが必要です。これらは法律で定められた手続きであり、社労士の正確な対応が求められます。
社労士の業務範囲には以下のようなものが含まれます。
- 社会保険・労働保険の計算と手続き
- 従業員の入退社に伴う手続き
- 育児休業や介護休業の手続き
給与計算を税理士に依頼するメリット・デメリット
給与計算を税理士に依頼することには、さまざまな利点と注意点があります。
特に税務に関連した業務を効率化できる点は大きなメリットですが、一方でコストや対応範囲に関するデメリットも考慮しなければなりません。
ここでは、税理士に給与計算を依頼する際のメリットとデメリットを詳しく解説します。
税理士に依頼するメリット
税理士に給与計算を依頼する最大のメリットは、税務に関する正確な処理が可能になることです。税理士は税金に関する専門知識が高く、特に年末調整や源泉徴収など、税金に直結する部分を正確に処理することができます。
例えば、給与計算の際には、所得税の源泉徴収が発生しますが、その金額を適切に計算し、毎月の納税手続きを行うことは非常に重要です。
また、年末調整のように所得税を再計算して過不足を調整する作業も、税理士に任せることで安心して行うことができます。特に役員報酬の設定や、従業員の賞与の支払いに伴う税務対応については、税理士のアドバイスが不可欠です。
さらに、税理士に給与計算を依頼することで、会社の全体的な税務戦略を一貫して管理できる点もメリットの一つです。給与だけでなく、法人税や消費税の申告など、企業全体の税務に対する対応を一元化することで、効率的に経営を進めることが可能になります。
税理士に依頼するメリットをまとめると、以下の点が挙げられます。
- 年末調整や源泉徴収など、税務に関連する給与計算の正確な処理
- 役員報酬や賞与の税務対応に関する専門的なサポート
- 企業全体の税務戦略を一元化した経営効率の向上
税理士に依頼するデメリット
一方で、税理士に給与計算を依頼する場合には、いくつかのデメリットも考慮する必要があります。
まず、コストが高くなる可能性がある点です。税理士は税務の専門家であり、そのサービスには相応の費用がかかります。特に給与計算だけでなく、他の税務業務も一緒に依頼すると、総合的なコストが上昇することがあります。
また、税務以外の業務には対応が限られる点もデメリットです。例えば、従業員の入退社に伴う社会保険の手続きや、労働保険の計算などは社労士の専門分野です。これらの業務も同時に対応したい場合、別途社労士に依頼する必要が出てきます。税理士に依頼した場合、給与計算全般をカバーできるわけではなく、特に税務以外の部分では対応が不十分になることがあります。
さらに、給与計算に関連する法律の変更や労務関連の規制に対して、税理士は社労士ほどの専門知識を持っていない場合があります。このため、労働関連法に基づく詳細な対応が必要な場合には、専門外となる可能性がある点にも注意が必要です。
税理士に依頼するデメリットをまとめると、以下の点が挙げられます。
- 税務以外の業務(社会保険や労働保険など)に対応が限られる
- 税理士報酬が高額になりやすい
- 労務関連の専門知識は社労士に劣る場合がある
給与計算を社労士に依頼するメリット・デメリット
給与計算を社労士に依頼する場合、社会保険や労働保険に関連する手続きの専門知識を活用できるという点で大きな利点があります。
一方で、税務に関する業務は対応範囲外となるため、これらの点をしっかり理解した上で依頼を検討する必要があります。
ここでは、社労士に給与計算を依頼する際のメリットとデメリットについて詳しく説明します。
社労士に依頼するメリット
社労士に給与計算を依頼する最大のメリットは、社会保険や労働保険に関する手続きを一括して任せられることです。社労士は労働法や社会保険に関する専門知識を持ち、従業員の入退社に伴う手続きや、育児休業や介護休業などの対応が得意です。
例えば、従業員が育児休業を取得する場合、育児休業給付金の申請や社会保険料の免除手続きを行う必要があります。これらの手続きは、法令に基づいた正確な対応が求められるため、社労士に任せることで、ミスなくスムーズに進めることができます。また、労働保険の年度更新や労働者災害補償保険(労災)の手続きも、社労士が適切に対応してくれます。
さらに、従業員の数が増えてくると、社会保険や労働保険の処理が複雑になり、社内で管理するのが難しくなります。その場合、社労士に業務を外注することで、労務関連のトラブルを未然に防ぎ、管理コストを削減できる点も大きなメリットです。
社労士に依頼するメリットをまとめると、以下の点が挙げられます。
- 社会保険や労働保険に関する正確な手続きが可能
- 従業員の入退社や育児・介護休業など、労務関連の手続きを一括で処理できる
- 従業員が多い企業でも、労務管理の負担を軽減できる
社労士に依頼するデメリット
一方で、社労士に給与計算を依頼する際のデメリットとしては、税務に関連する業務に対応できない点が挙げられます。社労士は労働や社会保険に関する手続きに特化しているため、年末調整や源泉徴収税額の計算など、税務に関わる部分は対応できません。このため、税務処理を含めた給与計算を依頼したい場合には、別途税理士にも依頼する必要があります。
また、税務と労務の両方を管理する際の調整が必要となる点もデメリットです。税理士と社労士の両方に依頼する場合、業務が分散されるため、それぞれの専門家とのコミュニケーションや調整が発生します。これにより、業務の一元管理が難しくなることがあります。
社労士に依頼するデメリットをまとめると、以下の点が挙げられます。
- 税務に関する業務には対応できない
- 税理士との連携が必要で、業務の調整が発生する
給与計算を税理士・社労士に依頼する際の費用相場
税理士と社労士に給与計算を依頼する場合の費用相場は、依頼内容や企業の規模によって異なります。税理士は税務関連の業務を、社労士は労務や社会保険関連の業務まで範囲が広がるケースもあり、業務の範囲に応じて費用も変動します。
以下では、それぞれの専門家に依頼した場合の費用相場を説明します。
税理士に依頼する場合の費用
給与計算を税理士に依頼する場合、従業員数に応じた費用の相場は下記のとおりです。
人数 | 費用 |
---|---|
~10名 | ~20,000円 |
11名~30名 | 20,000円~35,000円 |
30名~50名 | 35,000円~55,000円 |
51名~ | 55,000円~ |
10,000円程度の基本料金に加え、従業員1人あたり1,000円程度の費用が相場です。
上記に加え、確定申告や年末調整など、税理士に依頼する業務範囲によって費用が変動します。
社労士に依頼する場合の費用
給与計算を社労士に依頼する場合、従業員数に応じた費用の相場は下記のとおりです。
人数 | 費用 |
---|---|
~10名 | 10,000円~25,000円 |
11名~30名 | 25,000円~35,000円 |
30名~50名 | 35,000円~50,000円 |
51名~ | 50,000円~ |
10,000〜20,000円程度の基本料金に加え、従業員1人あたり1,000円前後の費用が相場です。
上記に加え、社会保険料に関する手続きや就業規則の作成など、社労士に依頼する業務範囲によって費用が変動します。
給与計算を依頼する際に注意すべきポイント
税理士と社労士それぞれのメリット・デメリットや、費用を踏まえた上で、給与計算を外部の専門家に依頼する際は次のポイントにも注意が必要です。
税理士・社労士それぞれに依頼できる専門領域
給与計算の依頼を行う際には、専門家の役割と対応範囲を正確に把握することが大切です。税理士は主に税務に関する業務を扱い、社労士は労務管理や社会保険の手続きに特化しています。それぞれの得意分野を理解し、どの業務をどちらに依頼すべきかを明確にすることが、スムーズな給与計算の処理につながります。
たとえば、年末調整や源泉徴収税の計算は税理士が適任であり、社会保険の計算や手続きに関しては社労士が適しています。このように、依頼する業務内容をあらかじめ整理し、専門家の役割を明確にしておくことで、依頼範囲の重複や抜け漏れを防ぐことができます。
適切な頻度でコミュニケーションが取れるか
専門家に給与計算を依頼する際には、業務範囲や進捗状況についてのコミュニケーションが不可欠です。依頼先の税理士や社労士との間で、サービス内容や期待される成果を詳細に確認し合うことで、ミスやトラブルを未然に防ぐことができます。
また、給与計算に関しては、給与支払日や法令変更への対応が求められる場面も多いため、柔軟な対応や質問への即時回答ができるパートナーであるかどうかを確認することが重要です。特に、対応のスピードやサポート体制に関するコミュニケーションがしっかりとれているかどうかを事前に確認しておくと、安心して業務を進めることができます。
自社の規模に合った給与計算の依頼先を選ぶことが重要
企業の規模に応じて、給与計算をどこに依頼するかは慎重に決定する必要があります。小規模企業と中〜大規模企業では、業務の量や複雑さが異なるため、それぞれに適した専門家を選ぶことがポイントとなります。
ここでは、企業規模に応じた適切な給与計算の依頼先を解説します。
小規模企業は税理士が最適
小規模企業の場合、税理士に依頼するのが適しています。税理士は給与計算だけでなく、税務申告や年末調整といった税務業務を一貫して担当できるため、企業の経営者にとっては管理がシンプルになります。特に従業員数が少なく、給与計算がそれほど複雑でない場合には、税務処理を含めた一元管理を行う税理士の役割が重要です。
例えば、年末調整や役員報酬の決定など、税務に関わる給与計算が中心となる場合、税理士に任せることでミスを防ぎ、法令遵守を確保できます。また、税理士は経営全般にわたるアドバイスを提供できるため、小規模企業の経営者にとって、財務戦略の相談相手としても役立てることができます。
中〜大規模企業は社労士が最適
一方、従業員数が多くなる中〜大規模企業では、社労士に給与計算を依頼するのが最適です。社労士は社会保険や労働保険に関する専門知識を持ち、従業員数が増えると複雑になる労務管理や保険手続きを円滑に進めることができます。
中〜大規模企業では、従業員の入退社に伴う保険手続きや、育児休業や介護休業などの手続きが頻繁に発生します。これらの業務は法的な手続きが必要であり、社労士に任せることで、労務トラブルを回避し、正確な手続きを迅速に行うことが可能です。また、従業員数が増えると、年度更新や定期的な保険料計算の負担も増加するため、労務に精通した社労士のサポートが不可欠となります。
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