あえて法人化しない理由に挙げられる10のこと:法人化に合う条件を含めて解説

あえて法人化しない理由に挙げられる10のこと:法人化に合う条件を含めて解説

個人事業主の方は、一定以上の規模や収入を超えると法人化を検討した方がいいと耳にすることがよくあるかと思います。ただ、個人事業主の中にはあえて法人化を選ばない人も多くいます。

この記事では、個人事業主があえて法人化を選ばない理由として挙げられる、10の要素を紹介します。

また、法人化した方がいいケースと法人化しなくてもいいケースについても解説しているので、法人化を検討している方はぜひ参考にご覧ください。

個人事業主があえて法人化しない10の理由

個人事業主があえて法人化しない理由には、主に次のような事柄が挙げられます。

端的に言えば、法人化すると「初期費用・維持費」がかかり、個人事業主の時よりも手間が増えるから法人化しない、というケースが多いです。

詳しく見ていきましょう。

1.法人化するのに費用がかかる

法人化する際、以下のような費用がかかります。

  • 株式会社:約25万円
  • 合同会社:約12万円

収入が多くない個人事業主であれば、わざわざお金を払ってまで法人化するメリットがないというケースも多く存在します。

2.社会保険の負担が増える

法人化すると、社会保険の加入義務が生じます。社会保険は社員と会社が折半で支払うものなため、人件費が上がってしまいます。

個人事業主のままであれば、社会保険未加入で4人まで雇うことができるため、法人化しない理由の一つと言われています。

3.税務が複雑になる

先ほどお話しした通り、法人化するとかかる税の種類が増えます。それぞれの税に割合が定められており、税務はどうしても複雑になります。

簡単に済ませようとすると、税理士への費用がかかる、自分でやろうとするとかなりの時間を取られるなど、個人事業主のままであれば発生しない手間が増えてしまうのも法人化しない理由の一つです。

4.法人化の手続きに手間がかかる

法人化する際に「法人設立登記」を作成する必要があり、記載や役場での認証、資本金の払込など手間が多くなります。

さらに設立後は、税務署や都道府県税事務所に届出、年金事務所に届出、労働基準監督署への届出など、提出する書類が非常に多く、業務に割く筈の時間が取られてしまいます。

自分が仕事をし続けなければ事業が回らない状態で、これらの手続きを行うのは現実的に厳しいことも、法人化しない時に多い理由です。

5.税務調査のリスクが高まる

実際、個人事業主と比べて、法人は税務調査の対象になる確率が高くなります。日頃からしっかりとした経理処理を行っておらず、脱税の疑いがある場合はもちろんですが、そうでなくても税務調査が入ると、多大な手間と精神的な負担がかかることがあります。

税務調査官から、思いもよらない点を指摘されることも珍しくありません。

そのため、税務調査のリスクを避けたいという理由から、法人化を見送る事業者も少なくないのです。

6.赤字でも住民税の支払いが必要

法人住民税には、法人である以上、たとえ赤字であっても支払わなければならない均等割が存在します。そのため、法人化することで、利益が出ていなくても最低7万円の法人住民税が課されることになります。

特に、経費が多く赤字決算が頻繁に発生する事業にとって、この法人住民税は大きな負担となることがあります。また、一時的に黒字であったとしても、将来的に赤字になる可能性を懸念する事業者も少なくありません。

7.収入を自由にコントロールできなくなる

法人化した場合、役員報酬に関するルールとして、会社設立後3カ月以内に報酬額を決定し、その後の事業年度中はその金額を変更できないという規定があります。

つまり、会社の売上に応じて自由に自分の収入を調整することはできません。年度の途中で報酬を変更することは可能ですが、そのためには、業績悪化改定事由や、臨時改定事由に該当していることが求められます。

さらに、法人化後も個人事業主時代と同じ感覚で、売上を個人的に自由に使用すると、それは横領と見なされ、刑罰の対象となるため注意が必要です。

8.会計・事務作業が増える

法人化すると、複式簿記による記帳、貸借対照表の作成、源泉徴収票の発行、決算申告など、個人事業主に比べて必要な会計や事務手続きが大幅に増えます。これらの業務を適切に行うためには、専門的な知識が求められます。

もちろん、自分でその知識を学び、対応する方法もありますが、それが難しい場合は税理士に依頼することになり、追加の費用が発生します。個人事業主と比較して、会計や事務作業の負担が増えることから、法人化を見送る方も少なくありません。

9.経営方針を自由に決定できなくなる

経営方針を自由に決められなくなるという点から、法人化を避けるケースも挙げられます。

法人化する際に出資者がいる場合、その出資者から経営方針に対して意見を求められることがあり、社長が一人で全ての決定を下せる状況ではなくなります。また、複数人で法人を設立する場合も、自分一人の意思だけで経営方針を決めることが難しくなります。

そのため、個人事業主のままでいる方が経営判断における自由度が高く、それを理由に法人化を見送る人も少なくありません。

10.精神的な負担が増す

法人化により社会的な信用度が向上する一方で、その分、経営者としてのプレッシャーが増すことがあります。

事業が拡大し、取引額が大きくなったり、金融機関から融資を受けたりすると、売上に対する不安やプレッシャーも一層大きくなるかもしれません。さらに、従業員を雇用している場合、その責任感がさらに精神的な負担となることもあります。

このようなプレッシャーを負担に感じ、法人化を選ばないケースもあるでしょう。

法人化した方がいいケース

法人化した方がいいケースは、大きく3つあります。

  1. 社会的信用が必要な場合
  2. もし事業が失敗した時に、負債が大くなる場合
  3. 年間利益が500万円ある場合

1.社会的信用が必要な場合

法人化すると、個人事業主の時よりも社会的信用が上昇します。

取引先が大手企業の場合、「社会的信用」が必要な場合が多いです。また、ローンを組む、事務所として賃貸を借りるなどの場面も社会的信用が必要となります。

個人事業主は、一般的に社会的信用が低いとされており、クレジットカードの審査が通らないことも珍しくないほど。社会的信用が必要となるなら、法人化することをオススメします。

2.もし事業が失敗した時に、負債が大くなる場合

銀行やビジネスローンからの借入の金額が大きく、万が一失敗した際に負債が大きい場合には法人化した方がいい場合が多いです。

理由としては、法人が「有限責任」であること。簡単に言うと、法人化しておけば万が一会社が倒産した際でも、出資した分の金額が返ってこないだけで済みます。

個人事業主のままだと「無限責任」になるため、発生した負債全てを返済する義務が生じます。失敗時のリスクが大きい場合は、法人化した方がいいと言えるでしょう。

3.年間利益が500万円ある場合

所得税の税率は、収入に応じて上昇します。個人事業主と法人化のボーダーラインは「500万円」であり、法人化した方が金銭的なダメージが少ない場合があります。

所得税は収入から税率や控除など、様々な要因が絡み合い算出される金額であるため、専門家である税理士に相談することをオススメします。

法人化しなくてもいいケース

以下のようなケースに該当する個人事業主であれば、あえて法人化を選ばない方がいい場合も考えられます。

事業の拡大を見通していない場合

法人化をしなくてもいいと判断できるケースとして、事業拡大の予定がない場合が考えられます。

現在の事業規模に満足しており、これ以上の拡大を計画していないのであれば、法人化のメリットをあまり感じられないかもしれません。法人化することで、社会的な信用が高まり、資金調達の選択肢が広がるなど、事業の発展がしやすくなるという利点があります。しかし、事業を拡大する意思がない場合は、無理に法人化を進める必要はないでしょう。

事務作業を複雑にしたくない場合

手続きや事務作業を複雑にしたくない場合、法人化にはデメリットがあります。

法人化をすると、個人事業主と比べて、事務作業が増え、手続きもより複雑になります。

確かに、法人化には節税などのメリットはありますが、その一方で、増加する事務負担とのバランスを考える必要があります。もし、法人化によって手続きや事務作業が煩雑になることを避けたいと考えているのであれば、無理に法人化を目指すのは避けた方が良いかもしれません。

法人としての信頼性が必要ない場合

法人化しなくてもいいケースの一つに、法人としての信用が特に必要ない場合が挙げられます。

法人化の大きなメリットの一つは、社会的信用度が向上することです。法人であることで、取引先や仕入先の中には、法人としか契約しない企業や、個人事業主とは規模の大きい取引を避ける企業もあります。法人化することで、そうした企業とも取引が可能になり、ビジネスの幅が広がることが見込まれます。

しかし、現在すでに個人事業主として問題なく取引ができている場合、さらなる信用度を求める必要はあまりないかもしれません。もし将来的に事業拡大を考えていないのであれば、個人事業主としてのままで十分と言えるでしょう。

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