法人成りするときの資産引き継ぎについて。引き継ぐ方法や注意点を解説します。

法人成りするときの資産引き継ぎについて。引き継ぐ方法や注意点を解説します。

個人事業主から法人成りを考えている人にとって、会計上の処理において不安を持たれる方は多いかと思います。

特に「資産引き継ぎ」では、会計上の処理が重要になります。最適な引き継ぎ方法を選択し、適切に処理をしなければなりません。

この記事では、個人事業主の方が法人成りをするときの「資産引き継ぎ」について、引き継ぐ項目や引き継げない資産、引き継ぐ方法や注意点について解説します。

資産引継ぎの重要ポイント:個人と法人は同じ人でも別扱い

資産引継ぎの重要ポイント:個人と法人は同じ人でも別扱い

個人事業主から法人成りした際、例え会社の従業員が自分だけだったとしても、個人と法人を分けて考えます。

わかりやすく言うと、会社としての自分が、個人事業主としての自分から資産を買ったり、譲ってもらったりするという書面上の手続きが必要なのです。

ではどういったものを引き継ぐ必要があるのか?代表的な3つの引継ぎ項目から見ていきましょう。

法人成りをする際の資産引継ぎ項目

法人成りをする際の資産引継ぎ項目

法人成りした際の代表的な資産の引継ぎ項目を3つ見ていきましょう。

  • 棚卸資産
  • 減価償却資産
  • 債権

それぞれ解説させていただきます。

商品や製品等の在庫の「棚卸資産」

個人事業主時代に持っていた製品などの在庫は「棚卸資産」となり、個人から法人へ売却したものとして処理されます。

原則として通常の取引価格での譲渡となりますが、型落ちや状態など様々な要因で価値が低下しているものについては、処分可能価格(時価)が通常の取引価格となります。

設備などの「減価償却資産」

設備などの固定資産は法人に時価で譲渡しなければなりません。個人が法人に「中古資産」として販売し、減価償却が適用されます。(減価償却とは、使用可能期間内で、分割して費用として計上する方法のこと)

耐用年数により減価償却の年数も異なりますので、特殊な設備などをお使いの方は無料相談の際にお尋ねください。

売掛金などの「債権」

売掛金などの債権を引継ぐ場合はそのまま引継ぎになります。しかし、債権者の同意が必要など手続きが煩雑になることも多く、個人側で債権を持ったまま返済する方も少なくありません。

債権に関しては引き継がない選択もできるため、あなたの現状に合わせてご判断ください。

土地や建物などの「不動産」

土地や建物などの不動産を引き継ぐ際には、一般的に譲渡または賃貸の方法が考えられます。この二つの方法の大きな違いは、所有権の所在にあります。

まず、譲渡の場合、不動産は新しく設立する会社に売却されるため、所有権がその会社に移ります。一方で、賃貸の場合、不動産は新しい会社に貸し出す形となり、所有権は引き続き個人に残ります。

不動産の所有権を変更する際には、所有権移転登記が必要で、これには費用や手間が伴います。法人成りをする際に、これらの費用や手間を抑えたい場合は、まず賃貸から始め、後々に譲渡を検討するという選択肢もあります。

法人成りした際に引き継ぎができない資産

法人成りの際には、すべての資産をそのまま法人に引き継ぐことが可能なわけではありません。この点を理解しておくことが非常に重要です。

具体的には、借用やリース契約で使用している物件や自動車、機器などは、法人へ直接引き継ぐことができません。個人事業主として契約していた場合、それらを法人名義に切り替えるためには、新たに契約を結び直す必要があります。

また、個人から法人へ契約主体が変わることによって、賃貸借契約の内容が変更される場合もあるため、十分な注意が求められます。

資産引継ぎ時の3つの方法

資産引継ぎ時の3つの方法

個人から法人成りして資産を引継ぐには「売買契約」「現物出資」「賃貸借契約」の3つの手続きがあります。それぞれ見ていきましょう。

売買契約:手続きが簡単

売買契約は、個人事業主と法人との間で売買する方法です。シンプルな方法かつ売買契約書を交わすだけで済むため、比較的手続きが簡単なことが特徴。

ただし、法人側に買い取るだけの資金が必要なこと、買収には必要に応じて税金が発生する点に注意が必要です。

現物出資:資本金を増やせる

現物出資は、個人事業主としての財産を会社に出資する方法であり、車両など金銭以外の資産を出資することができます。

法人側の資本金を増やせるというメリットがありますが、現物出資額が500万円を超える場合は公認会計士や弁護士の調査が必要な点には注意が必要です。

賃貸借契約:法人から賃借料を受け取るシンプルな方法

個人事業主時の資産を法人に貸す方法です。シンプルな方法で、賃貸借契約書を交わすだけで手続きが済みます。

ただし、保有者はあくまで個人事業主となるため、個人事業主側の確定申告が毎年必要な点に注意が必要です。

法人成りで資産引き継ぎをするときの注意点

法人成りで資産引き継ぎをするとき、あらかじめ以下の点に注意しておくことも重要です。

資産を無償や低額で譲渡すると「みなし譲渡」として課税される

個人から法人へ資産を無償または著しく低額で譲渡した場合、「みなし譲渡」が適用され、個人と法人の双方に課税が発生することになるため注意が必要です。

通常、無償譲渡や低額譲渡(時価の50%未満)においては、譲渡所得は発生しないと考えられがちです。しかし、資産の時価が高いにもかかわらず、こうした取引を行うと、通常発生するはずの譲渡所得に対する税負担を避けることができてしまいます。さらに、個人から譲渡された資産が法人によって保有され続ける限り、譲渡所得への課税を長期的に回避することが可能となってしまいます。

こうした不正な税回避を防ぐため、個人から法人への無償譲渡や低額譲渡については、「みなし譲渡」として課税される仕組みが設けられているのです。

資産の引き継ぎに消費税が発生する場合がある

個人事業主が課税事業者である場合、資産の譲渡には消費税が課されます。

個人事業主が課税事業者となる条件は、以下の3つです。

まず、①「インボイス登録をしている」こと、次に②「前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円を超えている」こと、そして③「前年の1月1日から6月30日の間における課税売上高または給与支払額が1,000万円を超えている」場合です。

これらの条件に該当する場合、課税事業者として消費税を納める義務が生じます。資産の譲渡は、「事業所得」または「譲渡所得」に該当し、原則として消費税が課税されます(ただし、土地や借地権などの非課税対象は除かれます)。

特に譲渡額が大きい場合、支払う消費税額も増加する可能性があるため、この点を考慮して譲渡を計画することが必要です。

引き継ぐ資産は選別する必要がある

業務内容によっては、個人事業主として多くの資産を使用している場合があります。

特に、店舗経営や小売業においては、備品や設備などの減価償却資産や棚卸資産が多数存在することが一般的です。これらの資産をすべて法人へ引き継ぐことは可能ですが、その際には手続きが煩雑になることを理解しておく必要があります。

特に、減価償却資産や不動産については、適切な時価を算出したうえで引き継ぎを行い、新たに設立する法人で固定資産として登録する手続きが求められます。この過程は時間と労力を要します。

一方で、今後使用予定のない資産や、故障や老朽化により買い替えを検討している資産については、引き継ぎの手間を考えると、無理に引き継ぐ必要はないかもしれません。引き継ぐべき資産を慎重に選定することで、手続きを効率的に進めることができるでしょう。

負債を引き継ぐ場合は資産とのバランスが重要

法人成りの際に資産を引き継ぐ場合、特に負債が資産よりも大きい状況では、慎重な判断が求められます。

資産よりも負債が多い状態で資産を引き継ぐと、会計上、個人が新たに設立する法人からお金を借りているような処理が行われることになります。これが意味するところは、個人の債務超過を法人に肩代わりさせたと見なされるリスクがあるということです。

このような状況が発生すると、法人の信頼性が損なわれ、今後の借入などに悪影響を与える可能性があります。そのため、資産と負債のバランスを十分に考慮し、どの資産と負債を引き継ぐかを慎重に検討することが重要です。

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