こんにちは。アウル税理士法人の代表社員税理士・佐藤 等(さとう ひとし)です。
さて多くの経営者が、社員に「主体性を持って仕事をしてほしい」と訓示します。
……が、その言葉だけで社員が自ら考え行動するようにならないことも、経営者は自らの体験から知っていると思います。
どうして社員が主体性を発揮できないのか。それは、あるたった1つの決定的な条件が欠けているからなのです。
その欠けている条件とは、すなわち“明確に絞り込まれた目的”。使命(ミッション)とも言い換えられます。
マネジメントの父であるドラッカーは、こう言いました。
組織は道具である。(中略)したがって、目的すなわち使命が明確であることが必要である。組織は一つの使命しかもってはならない。さもなければ、組織のメンバーは混乱する
『ポスト資本主義社会』より
指示待ち人間を生み出している責任は経営者にある
指示待ちではなく、主体性を持って社員に働いてほしいのなら、指示の出しすぎはタブーです。
というのは、指示や助言の中で「こう動いてほしい」という経営者や上司の意図が強く働くと、社員には“やらされ感”が生じてしまうからです。
人は誰しも、自分が思いついたアイデアについては積極的になってゆくもの。
積極性は主体性を育みます。ですから、経営者や上司が心がけるべきは、社員の発想を引き出すための「問いかけ」です。
ではどのような問いかけが有効なのでしょうか。それは、「何を」「どのようにすれば」という選択肢を広げる問いかけです。この問いかけが、社員の主体性をより引き出すことができます。
組織を方向づける5つの質問
しかし、「組織の方向づけ」がされていない状態で、「何を」と部下に尋ねてしまうと、組織の進む方向とは関係なく、「自分がやりたいこと」を答えてしまうものです。
そのときに上司が回答を否定して修正すれば、社員の“やらされ感”が増してしまい、悪循環に陥る可能性もあります。
南里英語教室を運営する「株式会社 NES」の代表・南里 洋一郎(なんり よういちろう)社長は、かつて「言われたことしかできない」社員を多く抱えていました。
「なぜうちの社員は作業係のような働き方しかできないのか」という疑問の中で、ドラッカーの『経営者に贈る5つの質問』という本に出合います。それは次のような質問でした。
- われわれのミッションは何か
- われわれの顧客は誰か
- 顧客にとっての価値は何か
- われわれにとっての成果は何か
- われわれの計画は何か
顧客価値を勝手に決めつけていないか?顧客価値を知っているのは顧客自身である
このとき南里社長に大きな変化を与えた質問は、「顧客にとっての価値は何か」「われわれにとっての成果は何か」でした。
塾というと、「成績向上」「志望校合格」と考えるのが普通です。おそらくそれを疑う人はいないでしょう。
だから南里社長も、これまで疑うことなく、「生徒の成績が向上することが顧客価値」「志望校合格実現が顧客価値」と決めつけていたのです。
ところが南里社長はドラッカーの問い「顧客にとっての価値は何か」に出合うことで、思い切って生徒130人分の保護者全員との面談を決意しました。
――「別にうちの子が志望校に合格しなくてもいいんです」
――「うちの子は今、『この高校に行きたい』という一心ですごく頑張っています。それなら受からなくてもいいから、自分で決めたことを全力でやり切らせたい」
すると面談では、驚くべき回答がたくさん返ってきました。
これがきっかけで南里社長は、「目標に向かって真剣に取り組む経験、体験」すなわち「努力するプロセス」に顧客価値を置くことにしたのです。
「顧客にとっての価値は何か」――このドラッカーの問いに対する答えがビシッと決まると、続く第4の問い「われわれにとっての成果は何か」もおのずと形が見えてきます。
結果、「明日の自分が楽しみになる」という、シンプルで強力なイメージを持つ成果を定義することができました。
すると、これまで指示待ちで主体性のなかったスタッフたちが、自らアイデアを発案し、積極的にコミットしてくるようになったのです。
「正しい問いが、人と組織を成長させる」
と南里社長は言います。
おわりに
みなさんの会社組織は、指示命令型のマネジメントに陥っていませんか?
今回の内容が、少しでも経営者のみなさんのお役に立てれば幸いです。
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