本記事は、自分で相続税を行いたい人向けの完全ガイドです。まず、ご自身で行うのが現実的かどうかの判断基準を解説した後、ご自分で行いたい時に参考になる計算方法や、申告の流れも解説しています。
この記事を読めば、専門家へ依頼するかの判断や、相続税額の計算方法がわかります。自分で行いたい方にとっては特に必要な情報ですので、ぜひご覧ください。
相続税の申告を自分で行うことは可能
相続税の申告を自分で行うことは、法律上問題ありません。しかし、現実的に行えるかどうかの判断は必要になります。
比較的シンプルな場合はご自身で申告しても問題が起きにくいです。しかし、複雑なケースの場合はミスが発覚し税務調査が入ることもあります。
まずは、自分で行う難易度が低いのか、高いのかを判断しましょう。次の項目でケースごとに解説します。
相続税の申告を自分で行えるケース
まず、相続税の申告を自分で行えるケースを見ていきましょう。
- 自分だけが相続する場合
- 相続するものが預金・現金のみの場合
- 遺言書があり、内容が詳細に定められている
自分だけが相続する場合
相続人(相続する人)が自分だけの場合、計算と手続きがシンプルに進みます。計算方法と申告書の書き方を理解するだけで申告可能なため、この記事を参考に進めてみてください。
ただし、不動産や株式、投資信託などがある場合、評価額の算出など手間が増え、合計で200時間近くかかることも少なくありません。
また、税務署は平日の日中しか開いていないため、時間の融通が利くことが前提条件になります。
相続するものが預金・現金のみの場合
相続するものが預金・現金のみの場合、計算がシンプルになります。このケースに限っては、相続人が複数いたとしても計算しやすいので、自分で相続税申告を行うことも十分可能です。
不動産や株式、投資信託などがある場合はその分計算と手続きが複雑になります。
遺言書があり、内容が詳細に定められている
遺言書があるかつ、内容が詳細に定められている場合は自分で相続税の申告をできる場合があります。
亡くなった方が漏れなく、全ての財産を誰に相続するかを明確に記載している場合、法定相続などの計算を全てスキップして相続が行われます。
控除額や税率を理解できていれば納税額を算出できるため、難易度の低いケースです。
ただし、財産目録にない財産が見つかった、相続する指定先が一部定められていない場合は、財産の評価や複雑な計算が必要になります。
相続税の申告を専門家に依頼した方がいいケース
次に、相続税の申告を専門家に依頼した方がいいケースを紹介します。
- 遺産分割協議を行う場合
- 非上場株式がある場合
- 生前贈与で、相続時精算課税制度を利用している場合
遺産分割協議を行う場合
法定相続分でなく、遺産分割協議で相続の内容を決める場合、専門家に相談した方がベターです。
遺産分割協議は、書類を作成する必要があり、相続人全員の実印が必要になる、全員の同意が必要など複雑化しやすい特徴を持ちます。ミスがあると修正が必要であり、その分時間が取られます。
遺産分割協議を行う場合は、あらかじめ専門家に相談しておき、スムーズに進められる段取りを決めておきましょう。
非上場株式がある場合
株式の評価は複雑になります。特に、非上場の株式がある場合「類似業種比準価額」「純資産価額」「配当還元方式」の3種類のうちから選び評価するため複雑です。
どの方式を選ぶかは、会社規模の区分によるためケースバイケースになりやすく、専門家へ相談した方がスムーズに評価できます。
生前贈与で、相続時精算課税制度を利用している場合
生前贈与の際、相続時精算課税制度を利用している場合、計算が複雑になります。
贈与した際には本来、贈与税を支払わなければなりません。しかし、相続時精算課税制度を利用すると、贈与分の税金を相続税としてまとめて納められます。
この際、不動産の評価額や、贈与した内容・金額など情報が多くなり、計算が複雑化します。相続時精算課税制度を利用している場合は、専門家への相談がおすすめです。
相続税の申告を自分で行うため基礎知識
ここでは、相続税の申告を自分で行うための基礎知識について解説します。難易度が低いかつ、ここの知識が理解できた場合はご自身で挑戦してみるのも一つの手です。
ステップ1:相続税の計算方法を把握する
まずは、相続税の計算方法を全体的に見ていきましょう。専門的な内容が多いため、詳しい内容は後々噛み砕いて説明します。
課税価格合計-基礎控除額=課税遺産総額(ステップ2〜3で解説) 課税遺産総額×法定相続分=取得金額(ステップ4で解説) 取得金額×税率-控除額=相続税額(ステップ5で解説) 相続税額-税額控除=納付税額(ステップ6で解説) |
相続税は、受け取る人により金額が異なります。総額を出すためには、それぞれの相続人の金額を算出し、合計する必要があるためご注意ください。
ステップ2:課税価格の合計を計算する
まず、課税価格の合計を算出する必要があります。課税価格を計算方法は以下の通りです。
相続財産-(非課税財産+債務・葬式費用)=課税価格 |
一見シンプルなように見えますが、不動産や株式などが相続財産にある場合、相続財産の計算が大変です。被相続人が亡くなった段階で、どれだけの価値があるものかを事前に計算しておく必要があります。
この課税価格を、相続人全員分計算し、合計したものが課税価格の合計です。
ステップ3:相続税の基礎控除額を計算する
相続税には、基礎控除があります。基礎控除とは、税金の計算をする際に誰でも差し引ける額で、相続税の場合の基礎控除は以下のとおりです。
3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
法定相続人とは、法律で定められた相続人(財産を受け取る人)のこと。具体的には、亡くなった方から見て以下のとおりです。
- 配偶者
- 子ども
- 親
- 祖父母
- 兄弟
例えば、亡くなった方に配偶者と、2人の子がいる場合計算は以下の通りになります。
3,000万円+600万円×3 =3,000万円+1,800万円 =4,800万円 |
基礎控除は、相続税の計算において重要なため、式を使えるようにしておきましょう。
ステップ2で出した、課税価格の合計から基礎控除額を差し引いたものが、課税遺産総額になります。
ステップ4:取得金額を計算する
課税遺産総額に、法定相続分をかけて取得金額を算出します。亡くなった人から見て、配偶者や子など、相続する人によって割合が異なるため注意が必要です。
具体的には、以下の通りになります。
配偶者 | 子 | 親 | 兄弟姉妹 |
---|---|---|---|
全部 | × | × | × |
1/2 | 1/2 | × | × |
2/3 | × | 1/3 | × |
3/4 | × | × | 1/4 |
例えば、配偶者ひとり、子ふたりの場合で課税遺産総額が1,000万円なら、以下のような計算になります。
配偶者=1,000万円/2=500万円 子どもA=1,000万円/4=250万円 子どもB=1,000万円/4=250万円 ※1/2の法定相続分を、子どもふたりで分けるため1/4ずつになります |
ここで出した金額が、取得金額です。
ステップ5:取得金額により税率・控除額が変動する
取得金額を算出できたら、次は税率・控除額です。以下の表を参照しながら計算します。
取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | – |
1,000〜3,000万円 | 15% | 50万円 |
3,000〜5,000万円 | 20% | 200万円 |
5,000〜1億円 | 30% | 700万円 |
1〜2億円 | 40% | 1,700万円 |
2〜3億円 | 45% | 2,700万円 |
3〜6億円 | 50% | 4,200万円 |
6億円超え | 55% | 7,200万円 |
例えば、取得金額が1,500万円の場合、以下のような計算になります。
1,500万円×15%-50万円=225万円-50万円=175万円 |
これが一人分の相続税額です。複数人いる場合は、取得金額が異なるため一人ずつ計算します。
ステップ6:税額控除を差し引き、最終的な納税額を計算する
相続税には、被相続人と相続人の関係や特質に応じた税額控除が用意されています。例えば、以下の通りです。
税額控除の種類 | 控除を受けられる人 | 内容 |
---|---|---|
贈与税額控除 | 生前贈与で贈与税を支払った人 | 暦年課税方式で贈与を受け、相続税の課税価格に加算された財産について贈与税を支払っている場合、その贈与税額が控除額になる |
配偶者の税額控除 | 配偶者 | 1億6,000万円までor配偶者の法定相続分相当額 以上のいずれか多い方まで、全額控除 |
未成年者控除 | 未成年の法定相続人 | (18歳-相続開始時の年齢)×10万円=控除額 |
障害者控除 | 障害者の法定相続人 | (85歳-相続開始時の年齢)×10万円*1=控除額 *1特別障害者の場合は20万円 |
ケースバイケースで細かく変動するため、税額控除を最大限利用したい場合は専門家へのご相談をおすすめします。
相続税の申告を自分で行う主な流れ
相続税の申告を自分で行う流れは、以下の通りです。
- 資料を収集する
- 財産を評価する(不動産、株式などを相続する場合)
- 遺産分割協議を行う(遺言書がないかつ、相続人が複数いる場合)
- 相続税申告書を作成し、提出する
上記の流れを行い、ミスがなければ納税額が通知されるため、納税します。ミスがあった場合は修正し、再提出となる場合もありますのでご注意ください。
1.資料を収集する
まずは相続税の申告に関する資料及び、財産を評価するための資料を収集します。不動産があれば登記情報、株式であれば銘柄や保有数などの資料が必要です。
請求が必要な書類に関しては、郵送に時間がかかることもあります。期間に余裕を持って、早い段階で資料を揃えることを意識しましょう。
2.財産を評価する(不動産、株式などを相続する場合)
相続税の計算時に、財産の評価額が必要になります。不動産であれば「路線価方式」または「倍率方式」での評価が必要です。居住用や事業用の宅地を相続する場合は、小規模宅地等の特例を使用できます。
株式であれば、「1株あたりの株価×保有数」で算出しますが、上場株式か非上場株式かで参照方法が異なります。
このように、不動産・株式は複雑化しやすく、ケースバイケースなためご自身で算出する場合は多くの時間が取られます。
3.遺産分割協議を行う(法定相続分と異なる相続をしたい場合)
法定相続分と異なる相続をしたい場合は遺産分割協議という話し合いを行う必要があります。
遺産分割協議は、相続放棄した人を除き全員の同意が必要であり、全員分の実印が必要など手間と時間が取られるものです。
特に遠方に親戚がいる場合などは、現実的に難しい場合もあります。
4.相続税申告書を作成、提出する
各種資料、計算結果をもとに、相続税申告書を作成します。
相続税申告書は、税務署窓口でもらえるほか、郵送で取り寄せる、ホームページでダウンロードする方法があります。
また、手書きだけでなく、インターネット上で作成・提出も可能なため、PC操作ができる方はe-Taxでの作成が便利です。
手書きしたものを提出する場合は、被相続人(亡くなった方)の住所地を管轄している税務署に提出します。持ち込むほか、郵送も可能です。
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まとめ
相続税の申告を自分で行うことは、法律上の問題はありません。しかし、現実的にできる場合とそうでない場合があります。
現実的にできる場合は、相続人が自分ひとりの場合、相続するものが預金・現金のみの場合、遺言書の内容が詳細に記載されている場合などです。
遺産分割協議や非上場株式がある場合、生前贈与で相続時精算課税制度を利用している場合などは計算が複雑化するため、専門家に依頼しましょう。
アウル税理士法人
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