M&Aの買い手として、譲渡(売り手)企業の簿外債務の把握は欠かせません。簿外債務は企業の価値に直結し、買取価格にも大きく影響します。
適正な企業価値を設定し、交渉を有利に進めるためにも、きちんとした手段で簿外債務を把握しておきましょう。
この記事では、簿外債務の主な種類や確認方法、発覚した際の対処法について解説します。
簿外債務とは?主な種類について
簿外債務とは、帳簿には記載されていない債務、つまり貸借対照表に計上されていない債務のことです。ルール違反なのでは?という印象を受けるかもしれませんが、会計の便宜上、計上しない債務も十分考えられます。
一般的には「未払い」の費用が簿外債務として扱われ、特に、中小企業の会計は簡略化が認められているため簿外債務があるというケースは珍しくありません。
- 未払い残業代
- 未払社会保険料
- 買掛金
- リース債務
- 債務保証
- 賞与引当金
- 退職金引当金
未払い残業代
簿外債務の中で最も多いケースが、未払い残業代です。サービス残業や計上漏れの残業から残業代が発生していることが多く、監査時に発覚しやすい簿外債務です。
タイムカードなどの勤怠管理だけでは把握漏れしていることが多いため、監査時には社長や人事へのヒアリングも行うようにしましょう。
未払社会保険料
社会保険料の加入は中小企業でよく起こるもので、特に、契約社員やパート社員で発生します。
M&Aを行う際の対策として、買収時に表明保証をするか、買収価格から未払いの社会保険金を減額するような対応をとることが多いです。
買掛金
商品やサービスの代金を後日支払うという取引をした際に生じる買掛金ですが、この買掛金の計上漏れは簿外債務の原因になります。
リース債務
リース債務とは、ファイナンスリース取引のときに発生する債務のことを指します。リース債務を賃貸借処理として仕分けする際に簿外債務が発生する可能性があり、債務履行も数年と長いものになりがちです。
通期で支払うリース料のみを費用として計上するため、長期債務は決算書に表面化されにくいという特徴があります。
債務保証
譲渡企業がほかの企業や個人の保証人となっている場合、債務者が債務不履行に陥ると連帯保証人として債務を負うことになります。
賞与引当金
賞与引当金とは、将来従業員に支払う予定の賞与に充てる積立金のようなものです。賞与引当金は損金に計上できないため処理が疎かになりがちで、簿外債務になる可能性が高いです。
退職金引当金
賞与引当金とは、将来従業員に支払う予定の退職金に充てる積立金のようなものです。賞与引当金と同様、損金計上が認められない上、年金制度などがあると手続きが煩雑になり、簿外債務になりやすい勘定です。
簿外債務の確認方法
以上で紹介した簿外債務をより正確に把握するための方法として、デューデリジェンス(DD)を徹底的に行うことをおすすめします。
デューデリジェンス(DD)を徹底的におこなう
デューデリジェンスとは、譲受企業(買い手)が譲渡企業(売り手)の経営環境や事業内容などを財務・税務・法務などのさまざまな観点から調査することを指し、企業の価値、将来の収益性やリスクを調査・分析します。
調査の主要項目は中小企業の場合、「事業」「財務」「税務」「法務」の4項目が特に重視され、多くの場合においてそれぞれの専門家が担当します。
個人で全てを調査することは困難を極めます。たとえ規模の小さな買収であっても公認会計士、税理士へと依頼することをおすすめします。
表明保証をおこなう
表明保証とは、M&Aにおいて売り手が買い手に対して契約の内容が真実かつ正確であることを表明・保証するものです。
M&Aでは、デューデリジェンスによって譲渡企業(売り手)の法務、税務、財務の問題点を洗い出し、調査結果を株価に反映させる交渉を行い、最終的な譲渡価格を決定します。
ただし、簿外債務を正確に抽出しきるのは難しいため、表明保証を契約書に盛り込み、簿外債務のリスクを抑えることが一般的です。
- 財務諸表と会計帳簿は正確であること
- デューデリジェンスで開示された情報に虚偽がないこと
- 開示していない偶発債務がないこと
- 譲受企業(買い手)が把握していない訴訟を起訴されていないこと
簿外債務が発覚した場合の対処法
デューデリジェンスやM&Aを通じて簿外債務が発覚した場合、以下の方法のいずれかを検討し、対処することになります。
①M&Aの内容を変更する
デューデリジェンスで多額の簿外債務を見つけた場合、M&Aの内容を変更するという手があります。例えば企業買収から事業譲渡に変更することで、不要な資産・負債や簿外債務を引き受けることなく、欲しい事業のみを手に入れることができます。
②M&Aを中止する
譲渡企業(売り手)が大きな簿外債務や訴訟を抱えている場合、譲受企業(買い手)はそれらをそのまま引き受けることになります。
デューデリジェンスやヒアリングの内容を元にM&Aで得られるメリットとリスクを比較し、デメリットの方が大きいと判断した場合は、M&Aの中止を検討しましょう。
③表明保証の内容を実行する
M&Aが完了した後で、簿外債務や粉飾決算などで損失を被った場合、表明保証の内容を実行することができ、損害賠償請求や契約解除などを求めることができます。
おわりに:最適なM&Aを行うためには専門家サポートも検討を
この記事では、簿外債務の主な種類や確認方法、発覚した際の対処法について解説しました。ポイントは以下の通りです。
- 簿外債務は貸借対照表に計上されていない債務のこと
- 簿外債務を把握するために徹底的なデューデリジェンスと表明保証を行う
- 簿外債務が発覚した際にはM&Aを中止するのも手
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