経営資源集約化税制は、中小企業のM&Aにおいて、将来の損失リスク発生の懸念を抱えながら、費用化出来なかった株式の取得価額が、一定の要件の下、株式購入直後に一部費用化出来るようになる制度です。
この記事では税制のポイント、概要、目的、仕組み、留意点などを解説します。
「M&A税制」ひとことで言うとどんな制度?
経営資源の集約化(M&A)によって生産性向上等を目指す、経営力向上計画の認定を受けた中小企業が、計画に基づいてM&Aを実施した場合に次の3つの措置が活用できるというものです。
- 設備投資減税(中小企業経営強化減税)
- 雇用確保を促す税制(所得拡大促進税制)
- 準備金の積み立て(中小企業事業再編投資損失準備金)
1~3の制度は要件を満たせば全部活用することもできますし、いずれかだけを活用することも可能です。
今回は3の準備金の積み立てについてご説明いたします。
1,2につきましては下記よりご確認ください。
M&A税制の準備金の積み立てとは?
まずは原文を見ましょう。
準備金の積み立て(中小企業事業再編投資損失準備金)は以下のような税制です。
一定の法律の認定を受けた中小企業がM&Aにより買収対象会社の株式を取得したら、その取得総額の70%までを準備金として積み立てることで、積立相当額をその年に損金算入できる(つまり、税金がかかる所得から差し引ける)。
そののち
買収した株式を売却、減額した場合には取り崩して益金にするほか、保有し続けた場合は一定期間経過後5年間に分けて均等に取り崩して益金にする(つまり、課税される)
簡単に言い換えると?
- 会社買収した年は、買収のために購入した株の70%を費用とすることができ、税金が減らせます。
- しかしその分は、将来のいずれかの時点で準備金を取り崩したときに収益になり、税金が増えます。
- つまり、減税ではなく、「税金の繰延」です。
会社の買収には、多額の資金を必要とすることが多いです。
また、仮に買収が成功裏に終わったとしても、その会社の隠れた負債が後々見つかったり、買収後の企業運営で障害が発生したりと、資金的にも不安定な状況がつづくことがあります。
そのため、事業拡大のチャンスにも関わらず買収に二の足を踏む中小企業も現れてきます。そこで、買収後間もない時点での税負担を減らし、企業買収を促進させることを意図して本税制が創設されることになりました。
具体的な内容は?
概要としては、令和6年3月31 日までに事業承継等事前調査(実施する予定のデュー・デリジェンスの内容)に関する事項が記載された経営力向上計画の認定を受けたものが、株式取得によってM&Aを実施する場合に(取得価額10億円以下に限る)、株式等の取得価額として計上する金額(取得価額、手数料等)の一定割合の金額を準備金として積み立てた時は、その事業年度において損金算入できる制度です。
そして、この準備金は、その株式等の全部又は一部を有しなくなった場合、その株式等の帳簿価額を減額した場合等において取り崩すほか、その積み立てた事業年度終了の日の翌日から5年を経過した日を含む事業年度から5年間でその経過した準備金残高の均等額を取り崩して、益金算入されます。
(注)上記の「中小企業者」とは、中小企業等経営強化法の中小企業者等であって租税特別措置法の中小企業者に該当するものをいいいます。
M&A税制はどうしたら受けられるのか?
上記の大綱本文にもある通り、この税制を受けるにはいくつかの前提条件があります。
大きく、下記2つの要件があります。
- 「特定事業者」であり、「中小企業者」である必要がある。
- 「事業承継等事前調査」を受けている。
「特定事業者」であり、「中小企業者」である必要がある
一般の事業会社を例にとりますと、特定事業者等とは中小企業等経営強化法に定めるもので、常時使用する従業員が2000人以下の法人または個人です。
また、「中小企業者等」とは租税特別措置法に定めるもので、資本金または出資金の額が1億円以下の法人(例えば個人事業のように資本や出資のない事業者なら、常時使用する従業員1000人以下の法人または個人)です。
※ただし、大規模法人に過半数の議決権を保有されているか完全支配関係にある会社は、その会社自身が資本金1億円以下、従業員数1000人以下であっても中小企業者等に該当しません。
そのほか、細かい要件が存在しますので、詳細は下記ご覧ください。
No.5432 措置法上の中小法人及び中小企業者|国税庁 (nta.go.jp)
「事業承継等事前調査」を受けている
事業承継事前調査は、買収する企業に対し公認会計士などによるDD(デユ―デリジェンス)を実施して、その内容が記載された経営力向上計画について主務大臣の認定を受けることです。DDの程度について、具体的なガイドラインはまだ出ておりません。通常の企業買収と同等のものとして実施されるのか、ある程度一律の要件が定められるのか、具体的内容は今後の情報が待たれます。
課税の繰り延べのイメージ
実際に税制が適用された場合、各年の所得と税額に与える影響はどのようになるでしょうか?あくまで大綱の記載を基に作成したイメージですが、数値例を以下に作成しました。
仮に、買収した株式の取得価額が12億、実効税率が32%、株式取得価額の70%(8.4億)を準備金として積み立て、その全額に対して課税の繰り延べが認められたという前提で計算しています。
(単位:百万円)
1期目 | 2期目~5期目 | 6期目 | 7期目 | 8期目 | 9期目 | 10期目 | |
課税所得への影響 | ▲840 | ― | +168 | +168 | +168 | +168 | +168 |
法人税等への影響 | ▲268.8 | ― | +53.76 | +53.76 | +53.76 | +53.76 | +53.76 |
(注)横にスクロールしてご覧いただけます。
初年は大きく税金が軽減しますが、一定期間経過後、以前減額された税金が数年に分けて増額されることで帳尻が合うというイメージになります。
終わりに
経済産業省は税制改正要望の中で、本税制の目的として、
ウィズコロナ/ポストコロナ社会においては、【新たな日常】に対応していくことが必要。このためには、単に設備投資や研究開発等を進めるだけでは足りず、業態転換も含めて大胆なビジネスモデルの変革を進めることで生産性を向上させることが重要。…(中略)…新型コロナウイルス感染症の影響によって先行きが不透明な中において、地域経済・雇用を担おうとする中小企業による経営資源の集約化等 (統合・再編等)を後押しすることで、新規事業拡大や多角化等を図る。
と説明しています。
この税制は、現金流出が多いもののその費用化はできないM&A初年に大きな税額の軽減があり、インパクトの大きな税制となるかと思います。
今後、買収を検討している経営者の皆様は、是非覚えておいていただきたい税制となります。
アウル税理士法人
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