「顧客づくり」とは、顧客数を増やすことではありません。顧客価値を創造することです。その結果として顧客が増えるということです―前回(第1回)は、「顧客価値」についてお話しました。
- 事業とは、市場において知識という資源を経済価値に転換するプロセスである。
- 『創造する経営者』
上記の「経済価値」は「顧客価値」という言葉に置き換えることができます。つまり、「事業」というプロセスがアウトプットするものが「顧客価値」(顧客満足)ということです。
「顧客にとっての価値は何か」
前回、ドラッカー教授の問いを紹介しました。
顧客の価値は多様です。
「顧客にとっての価値は何か」と明確にすることは、それを提供する「プロセス」を組み上げることに通じています。ファースト・フード店と割烹では、事業プロセスが異なるということです。
事業のプロセスは、「仕組という資産」の作り方(仕組みづくり)の中核をなします。その話は別の機会にするとして、このプロセスの巧拙が提供する顧客の価値に影響することは、容易に理解することができます。
逆にプロセスの巧拙は、顧客価値の明確化と相互依存関係にあります。この点は、「顧客という資産」の作り方(顧客づくり)の重要なポイントです。つまり「その事業の顧客にとっての価値は何か」を問うことが重要だということです。
この際、重要なポイントは、組織期全体の業績からは、この事業の価値は見えにくいということです。いくつか見えにくい原因があります。第一に、「価値」とは、数字ではなく定性的な情報だということです。ドラッカー教授は、「市場におけるリーダーシップ」という言葉を使います。これは、顧客の支持をどのように受けているかを示す基準です。独自化されているか、差別化されているか、他と競合的か、限界的状況(退場寸前)か。
残念ながら会計データには、現れない情報です。私たちは、数量に現れない重要な情報を見逃してはなりません。よくあるのが他と競合的な状況の事業などが売上の大半を作っているという状況です。事業のライフライクルも衰退期にあり、粗利率も寡少な状況では、撤退を検討しなければならないのです。このようなサインは、定量的な情報にどのような定性的な情報を組み合わせて判断する基準をもっていなければならないことを意味します。
見えにくい原因の第二は、事業区分と部門など会計上の単位が必ずしも一致していないことです。事業プロセスとは、一つの完結するパターンです。こんなことがありました。取次店をいくつも持つクリーニング業の会計単位は、各取次店別と工場でした。ワイシャツの仕上がり形態の違いによって「折りたたみ」と「ハンガー仕立て」がありました。店舗では、売価の高い「折りたたみ」をお客様にお奨めしていました。しかし工場での手間(原価)を考えると「ハンガー仕立て」をお奨めすることが粗利の観点からは正解だったのです。
ここから「ハンガー仕立て」という形態で満足してもらえるかもしれないお客様に、無理に事業者の都合で「折りたたみ」を販売していなかったかが問題として浮き上がってくるのです。あくまでも「顧客にとっての価値」という基準が優先するということです。
この事例は、ワイシャツのクリーニングという事業が2つの異なるプロセスで提供されていることを意味します。ここから店舗別などの会計単位がそのまま事業区分となることは稀だということがわかります。プロセスを一気通貫で見つめる視線が事業を見るということなのです。
自社の「事業」をどうやって区分するかを考えることは、「顧客という資産」の作り方に関して重要なポイントになります。少しコツをおぼえるとできるようになります。適正な事業区分は、マネジメント会計の入り口です。
【参考】
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